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見えるネットワーク、見えないネットワーク

Coach's VIEW 2020年11月 9日

稲川由太郎

稲川由太郎

株式会社コーチ・エィ 取締役 副社長 執行役員
国際コーチング連盟プロフェッショナル認定コーチ
一般財団法人 生涯学習開発財団認定コーチ

組織には、組織図に代表されるようなフォーマルにシステム化された管理の後ろに、実はいろいろなレベルでインフォーマルなネットワークが存在します。

インフォーマルな人と人のつながりによる人間関係のダイナミクスは、組織にとってプラスに働くこともありますが、組織内に見えない障壁を作るといったマイナスの作用があることも少なくありません。そうした意味で、インフォーマルなネットワークは組織全体の意思決定や経営の効率に実は大きく影響していますが、トップマネジメントからは見えづらいという難点があります。

組織にイノベーションを生みだすネットワークとは

組織の中に存在するインフォーマルなネットワークがプラスとマイナスのどちらに作用するかは、トップマネジメントの考え方や活用次第です。

組織論を専門とする青山学院大学大学院教授の中野勉氏は、著書である『ソーシャル・ネットワークとイノベーション戦略』の中で、組織社会学者であるデビット・スタークの「創造的な摩擦」に関する理論を紹介しています。中野氏は、スタークの理論について次のようにまとめます。

「スタークの理論の根本にあるのは、たとえば、企業組織であれば、ネットワークはインフォーマルなサブ・グループに固有の文化を形成し、グループ間で異なる価値観(values)、状況的な認知(situated cognition)や情報や解釈のフレームワーク(cognitive framework)、異なる評価原理(performance criteria)が存在する可能性があるという考え方です。そして、それぞれのグループが自らの正統性を求め活動する結果、緊張関係の中で文化的な衝突を組織内の「不協和(dissonance)」として、その調整過程でイノベーションが生まれると主張します」(※)

つまり、スタークの理論とは、異なるインフォーマルなグループが交差し様々にぶつかり合うことで生じる「不協和」は「創造的不協和」であり、そこからイノベーションが生まれるというものです。

インフォーマルなネットワークを棚卸して再構築する

ある精密機器メーカーの執行役員で事業部長A氏。任されている事業部単体では赤字が続き、黒字化に向けてエグゼクティブ・コーチングを活用しています。

事業部の変革を阻害しているのが「部門のサイロ化」という問題です。営業、設計、開発、製造をマネジメントする人間が自部門のことしか考えない。もっと連携し合えばシナジーが生まれることがわかっているのに、組織として自ら現状に変化を起こすことができないのです。責任感の強いA氏は、変革のキーパーソンへの自らの関わりを変えることでその問題を解決しようと必死でした。

あるセッションで、大きい紙とペンを用意してもらい、「変革を実現するためのキーパーソン」の名前を書いてもらいました。

A氏は、自分の名前をど真ん中に書き、一人一人思い出すように自分に近い人から離れている人まで20名の名前を書きました。

私は、事業部のネットワークを棚卸しする目的で、いくつかの問いをA氏に投げかけました。

書かれた人についてや、A氏自身との関わりについて聞いている間はとても雄弁に語っていたA氏でしたが、キーパーソン同士の「横のつながり」について話が及ぶと、途端に沈黙する時間が増えました。

セッションを終えるとA氏は言いました。

「いつも、組織図に紐づいて、自分との関係性ばかりを考えていたが、キーパーソン同士がどのようにつながっているのかは全く知らない。自分以外でどんなつながりをつくるとイノベーションが起こるのか、それぞれと話してみたいと思う」

どうやら、自分を軸に考える視点から、組織に変革を起こすためのつながりはどのようなものなのかを考えるきっかけになったようです。

人と人の関わりを扱う

昨今、コミュニケーションやメンバー同士の関係性に関するデータを活用して、組織内の「関わり」を可視化するONA(Organization Network Analysis/組織のネットワーク分析)が注目されています。

ONAを手がかりに今まで見えなかった、気がつかなかった領域を、マネジメントに活用することで、以下のような経営テーマを解決することが容易になると言われます。

  • サイロを壊して部門連携を促進したい
  • イノベーションを生み出す組織体質に変えたい
  • 次世代リーダーを特定したい
  • 離職率を下げたい

今トップマネジメントが取り組むべきは、人の「関係性」の視点を取り入れたマネジメントです。ここでいう「関係性」とは、単に「うまが合う、合わない」といった関係性ではありません。大切なのは、誰と誰がつながり、組織にどういう作用を及ぼしているのかという観点。組織図には現れないインフォーマルなネットワークを、組織の文化を変える潤滑油として使うことを真剣に考える必要があるのです。

社内の人間関係のネットワークを重視したコミュニケーションの活性化は、意見のぶつかり合いによるイノベーションの喚起を可能にします。

あなたは、インフォーマルな関わりを組織の中にどのようにデザインしますか?

関連情報

コーチ・エィの組織ネットワーク分析サービス『リンカク/Link arc』
DACG

この記事の著者

稲川由太郎

稲川由太郎

株式会社コーチ・エィ 取締役 副社長 執行役員
国際コーチング連盟プロフェッショナル認定コーチ
一般財団法人 生涯学習開発財団認定コーチ

成蹊大学経済学部卒、米国サンダーバード大学院国際経営学修士MBA。大日本印刷株式会社の出版営業を経験後、上田短資グループ(ニューヨーク、日本)にて国内外の銀行、商社、証券会社等に為替取引、金利デリバティブ商品のブローキング業務を実施。その後、株式会社プラウドフットジャパンのプロジェクトマネージャーとして、上場企業およびオーナー企業に対して企業変革プロジェクトを多数実施。ニチモウ株式会社にて代表取締役として会社変革に取り組んだ後、事業承継によりゴルフ場の代表取締役総支配人として異業種経験を活かした経営再生に取り組み事業譲渡後、コーチ・エィに入社。