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その会議に心理的安全性はありますか?

その会議に心理的安全性はありますか?
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コロナ禍の影響で、この1年半、世界中で働き方が大きく変わりました。オンラインでの会議が一般的になり、私が駐在している上海では、駐在員の方々から、コロナ前と比べ、本社や各拠点との会議やミーティングが増えたという声が聞かれます。

オンラインになってこうした機会が増加した分、会議やミーティングの課題点が浮き彫りになる傾向もあるようです。

ある日系企業の日本人幹部からは「会議に参加している中国人メンバーの一部が自分の意見を言わない。会議での発言が一部の人に限られている」と、別の日系企業の中国人リーダーからは「会議に参加しても一方的な情報伝達で頭に入ってこない。時間の無駄のように感じる」と聞きました。

こうした会議に関する問題点は以前から指摘されてきました。一般的に、4人のグループの場合はそのうち2人が発話の62%を担う傾向があり、6人グループなら3人で70%。この支配傾向は集団が大きくなればなるほど強くなっていくといいます(※1)。

リアル、オンラインにかかわらず、真に生産的な会議運営のためには、何が必要なのでしょうか。

組織の中にどんな「前提」が共有されているか

今私は上海で、中国人リーダー数十人が主体となって変化を起こしていくことを目的とした組織変革のプロジェクトに携わらせていただいています。その中で、中国人リーダー一人ひとりとのコーチングを通し、組織の中に潜む前提が浮かび上がってきました。

  • どうせ意見を上げても上司に否定されるだろう
  • 駐在員であるトップが交代すれば会社の方針も考えも変わる
  • 間違った意見を言うと評価につながる
  • 揚げ足をとられる可能性があることはしない方がいい

こうした前提が暗黙のうちに共有され、結果として、前述のように会議やミーティングの場での発言が少なくなる、積極的に上司に提案しない、部門間のコミュニケーションを積極的に行わない、といった状況が定着しているのではないかと思われます。

「意見を上げても否定される」「間違ったことを言ってはいけない」、こうした前提が生まれる背景には、活発な意見交換を阻害する何らかの要素がありそうです。

「わかったつもり」は心理的安全性を脅かす

ハーバード・ビジネススクール教授のエイミー・C.エドモンドソンは、その著書(※2)の中で、

「沈黙の文化とは、懸念の表明より周囲との同調が大勢を占める文化だと理解していいだろう。根底にあるのは、人々の意見はたいてい価値がない、ゆえに尊重するには及ばないという前提だ。」

と、耳を傾ける文化の必要性を主張しています。そして、

「その基本は、ほかの人の発言に心から関心を寄せられるようになること。なぜ、これが難しいのか。それは大人なら皆、向上心が高ければ特に、ナイーブ・リアリズム(自分は世界を正しく客観的に認識していると考える傾向)という認知バイアスにかかりやすく、今起きていることを自分は『わかっている』と思ってしまうからである。」

エドモンドソン教授は「リーダーがこのようなバイアスを克服して心から質問できるようになったら、それによって心理的安全性が促される」と述べます。

相手自身に耳を傾けることが相手の警戒心を解く

コーチにとってのコーチングの指針に、国際コーチング連盟(ICF)の定めるコーチのコア・コンピテンシー(※3)があります。その中に「信頼と安全を育む」というカテゴリがあり、これは、コーチとして継続的に開発していく必要のある領域です。

コーチとクライアントとの信頼関係という観点で、記憶に残っている事例があります。そのクライアント、Aさんとコーチングを開始した当初、Aさんは私が問いかければ答えてくれるものの、本音で話してくれていないことが伝わってきました。

そのことを直接Aさんに伝えることもできましたが、私はまず、「Aさんを知る」ことに集中しました。駐在員であるAさんが、どんな思いでこの国に来たのか。何を考え、何を感じてきたのか。そして、今どこにいて、どこに向かおうとしているのか。Aさんの上司からの情報も、そこから膨らませた自分のAさんに対するイメージも横に置き、とにかく「Aさん自身を知る」ことに集中したのです。すると、Aさんは、徐々に本音を話してくれるようになっていきました。

後にAさんは「コーチは上司から依頼されて、自分を評価しよう、あるいは変えようとしているのではないかと思っていた」と話してくれました。

このときは「Aさんについて教えてほしい」という私の問いかけが、Aさんの警戒心を解くことにつながったのだと思います。

心理的安全性は一人ひとりの対話を通して生まれる

会議やミーティングで、参加者全員が自由に発言するには、その場に心理的安全性があることは大事な要件です。しかし、その場だけで心理的安全性をつくろうとしてもうまくいかないでしょう。心理的安全性とは、まずは一人ひとりとの対話を通して育まれ、それが徐々に周囲にも影響し、新たな文化として定着していくものではないでしょうか。

前述のプロジェクトも、まだ「現状を知る」というフェーズです。過去の歴史の中で蓄積されてきた前提を変えていくことは簡単なことではないでしょう。

現地法人では、言葉の問題もあります。生まれ育った環境や文化的背景の違いもあります。だからこそ、一人ひとりと向き合うことが、より必要になってくるのだと思います。

新しい組織文化構築に向けた対話の起点をつくり、その連鎖を起こすその先に、質が変わり、生産性の高い会議やミーティングが生まれてくるのではないでしょうか。

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【参考資料】

※1 マシュー・サイド(著)『多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2021年

※2 エイミー・C・エドモンドソン (著)、 村瀬俊朗 (解説), 野津智子 (翻訳)『恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』英治出版、2021年

※3 国際コーチング連盟 ICFコア・コンピテンシー、2019年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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